新潟家庭裁判所糸魚川支部 昭和54年(家)267号 審判 1980年1月08日
親権者変更(甲)事件申立人 小林カオル
後見人選任(乙)事件申立人 岡田光男
事件本人 岡田ひとみ
主文
一 昭和五四年(家)第二六七号親権者変更申立事件の申立人小林カオルの本件申立を却下する
二 昭和五四年(家)第二七二号後見人選任申立事件について事件本人岡田ひとみの後見人として申立人岡田光男を選任する。
理由
第一 甲事件の申立の趣旨及び理由
申立人小林カオルは、「事件本人の親権者を申立人に変更する。」との審判を求め、その理由として、「申立人と岡田光一郎とは、昭和五三年八月一九日調停離婚し、その際両者間の長女ひとみ(事件本人)の親権者を父光一郎と定めた、しかし、光一郎のひとみに対する監護養育は不適当であるのでその親権者を母である申立人に変更するよう光一郎を相手として本件調停申立をしていたところ、光一郎は、昭和五四年六月二二日事故死したので、事件本人の親権者を申立人に変更するとの審判を求める。」と述べた。
第二 乙事件の申立の趣旨及び理由
申立人岡田光男は、主文第二項と同旨の審判を求め、その理由として、「申立人は、事件本人ひとみの父光一郎の父母の養子であるが、ひとみの親権者光一郎が昭和五四年六月二二日事故死し、後見が開始したので、事件本人の監護養育のため申立人をその後見人に選任するとの審判を求める。」と述べた。
第三 当裁判所の判断
1 本件各記録、本件に関連すると認められる当庁昭和五二年(家イ)第二九号夫婦関係調整申立事件記録、家庭裁判所調査官作成の調査報告書及び甲事件申立人小林カオル、乙事件申立人岡田光男各本人審問の結果を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 亡岡田光一郎は、昭和五〇年一一月一四日、甲事件申立人小林カオルと妻の氏を称して婚姻し、カオルの実母タミらと同居し、昭和五一年九月二日には長女ひとみを儲けたが、カオル及びタミとの仲は悪化し、昭和五二年九月二三日ころひとみを連れて実家である乙事件申立人岡田光男方へ帰り別居するに至り、同年一〇月七日当庁に夫婦関係調整申立事件(当庁昭和五二年(家イ)第二九号事件)を申立てたが、カオルが光一郎の酒乱と暴力が原因で夫婦仲は破綻しているとして終始離婚したい旨主張したため、昭和五三年八月一八日ひとみの親権者を父光一郎と定めてカオルと調停離婚した。
(2) カオルは、離婚するに際しひとみの親権者を光一郎と定めたのは、光一郎がひとみをどうしてもわたさないと主張していたため、離婚したい一心で妥協してしまつたが、離婚後もひとみの監護養育について関心を持ち続け、光一郎の実家附近へ出かけては近所の人らにひとみの様子をたずね歩き、かんばしくないうわさを聞いたりして昭和五四年三月一二日本件甲事件を申立てるに至つた。
(3) 甲事件の調停は、第一回の調停期日(光一郎は出稼中で不出頭)後まもない昭和五四年六月二二日光一郎が出稼先工事現場の事故が原因で死亡したため実質的進展のないまま審判に移行したところ、同年七月六日本件乙事件申立人岡田光男から自らを後見人に選任されたい旨の乙事件が申立てられた。
(4) 光男の乙事件の申立は、当初光一郎の出稼先から保険金一千万円が下りるため、後見人の選任を指示されたことがその発端であつたが、光男は光一郎の出稼中ひとみを光一郎の母キヨらとともに監護養育し、かつ、光一郎から臨終の床でひとみの監護養育を頼まれたこともあつて、ひとみに対し肉親の情を感じ、現在強くその監護養育を継続して行くことを望んでいる。
(5) 光男は、光一郎の父母の養子であるが、肩書住所地に養母キヨと事件本人ひとみとの三人で生活し、建設会社に土工として勤務している。ひとみの日常の監護養育は、光男が独身であるため主としてキヨがこれに当つているが、ひとみとキヨ及び光男との関係に特段不適当というべきものは認められず、ひとみはキヨ及び光男を肉親の情をいだいて信頼し、心的交流も問題なく円満に行なわれている。
(6) 一方カオルは、先夫川井貞夫(同人とは昭和四六年八月二五日協議離婚している)との間の長女良子(昭和四三年二月二日生)及び実母タミとの三人で生活しているが、男手がないこともあつて親戚からの影響を受けやすい立場にあり、また、離婚後ひとみとの直接の交流はほとんどなく、ひとみを引取つた場合その心的交流が適切に行なわれるか否か不安があり、かつ、カオル自身日雇仕事に出なければならないことからひとみの監護養育は実質的には主としてタミに頼らざるをえない状況にある。
2 ところで、本件のように離婚の際未成年の子の単独親権者となつた者が死亡した場合には後見が開始することはいうまでもないが、その場合親権者とならなかつた他方実親が生存しており、新たに親権者となることを希望し、かつ、その者が未成年者の監護養育にあたることが未成年者の福祉に合すると認められる場合には、親権者を死亡した単独親権者から生存する実親に変更する余地を否定すべき理由はないと解するを相当とするが、前記認定した事実によれば、甲事件申立人小林カオルは、事件本人ひとみが生後一年になつたばかりの時から生活を共にしていないばかりか、以後ひとみと直接交流をもつておらず、かつ、今後ひとみの監護養育を全面的に専念しうる態勢が十分とはいえないうえ、他方、乙事件申立人岡田光男についてもひとみの監護養育を老令なキヨに依存しなければならず、将来のことを考えると不安な面がないわけではないが、ひとみは現在光男及びキヨの手許で一応平穏な生活を送つて安定していること、その監護養育並びにひとみの財産管理について不適当と認むべき特段の事情も認められないこと、現在三歳余のひとみの生活環境及び人的環境を変えることについては慎重であるべきこと等を合せ考えると、実親であるカオルの自然な愛情による監護養育により適切な面があることは否定できないものの、現在ここでカオルにひとみの監護養育の責任を委ね、光男及びキヨらとひとみの引取り等について紛争を重ねることはひとみの福祉の面で適当とはいえないと認めざるをえない。
3 よつて、本件甲事件の申立は不当であるからこれを却下することとし、乙事件の申立は相当として(前記認定した事実によれば、岡田光男が後見人として不適当であると認むべき特段の事情はない)主文のとおり審判する。
(家事審判官 小川克介)